川端康成氏からの問いかけ!?
      2015 / 11 / 20 ( Fri )
      日本初のノーベル文学賞作家、川端康成氏が無類の犬好きでいらしたことを
      全く存じ上げませんでした。

      むしろ意外に思いました。

      志賀直哉氏や坂口安吾氏からは(ああ、そうだろうな)と思わせる雰囲気を
      感じてはいたのですが、潔癖症だとばかり思い込んでいたためか、
      川端氏の正真正銘犬好きエピソードを伺い知って、
      かなりびっくりした次第です。


      よくよく考えますれば、ご両親、お祖母様、お姉様を次々に亡くされ、
      同居されていた唯一の肉親でいらしたお祖父様ともわずか15歳の時に
      死別されている同氏。
      出会うべくして犬と出会あったのかもしれません・・・・。

      少し調べてみますと、当時はまだ非常に珍しかったであろう
      ワイヤー・フォックス・テリアやコリー、グレイハウンドたちと
      暮らしておられたそうです。


      ちなみに、当時のお写真を見ますと相棒コリーはトライっこ!
      当初、原産国イギリスからコリーを輸入しようと試みられたそうですが、
      飼育環境に難色を示したイギリスのブリーダーからは結局
      譲っていただけなかったとか。
      このエピソード一つをとっても、川端氏がどれほど犬に魅入られていたか
      伺い知れます。
      (ちなみに、コリー好きで知られる坂口安吾氏は川端氏にコリーを探して貰い、
      それに対する御礼の手紙が残されています。)


      私が一番驚いたのは、川端康成氏が昭和8年(1933年)に発表したエッセイ
      「愛犬家心得」の先駆的内容です。
      (ちなみに前年には、ワイヤー・フォックス・テリアの愛犬エリーを
      モデルにした短編小説「愛犬エリ」を執筆。)

      川端康成氏が提唱した愛犬家心得を以下にご紹介いたしますね。


      一つ。血統書ばかりではなく、親犬の習性を良く調べた上で、子犬を買う。

      一つ。放し飼いをしない。

      一つ。犬を訓練所に入学させ、また、犬猫病院へ入院させるにも、
          預け先の犬の扱いをよく知っておく。

      一つ。一時のきまぐれやたわむれ心から、犬を買ったり、もらったりしない。

      一つ。数を少なく、質をよく、そして一人一犬を原則とする。

      一つ。犬も家族の一員のつもりで、犬の心の微妙な鋭敏さに親しむ。

      一つ。犬に人間の模型を強いて求めず、大自然の命の現れとして愛する

      一つ。純血種を飼う。

      一つ。病気の治療法を学ぶよりも、犬の病気を予知することを覚える。

      一つ。先ず、牝犬を飼って、その子どもを育ててみる。

      一つ。犬を飼うというよりも、犬を育てるという心持をどこまでも失わない。



                       川端康成「愛犬家心得」より(『犬』収録(中央公論新社)





      「純血種を飼う」「牝犬を飼い、その子どもを育ててみる」以外はすべて
      同感!!と拍手喝采。


      ちなみに「純血種を飼う」の論拠は、ジステンパーが流行していた当時、
      純血種はジステンパーにも弱く、飼いにくく、死にやすい。
      初心者はまず雑種を飼うべきとの通説に対するアンチテーゼだった模様です。
      「タダでもらった犬だと粗末にする。高いお金で買った犬であれば、
      注意して大切に飼う」との持論を述べたものであろう、とあり。

      「牝犬を飼い、その子どもを育てる」ことの背後には、
      「犬の妙味というものは、自分がへその緒を切ってやった子犬を育てあげないと、
      十分にはわからない」との気持ちがあってのことだとか。


      いやぁ・・・・本当におみそれしました。



      今から80年以上前の日本、
      まだ、犬は放し飼いが一般的で、「犬畜生」と呼ばれることも多く、
      獣医師にかけてもらえる幸運な犬が果たしてどれだけいたのかしらと
      思われる時代にですよ、奥サマ!


      ただただ、川端康成氏の犬への真摯さに打たれました。

      なぜここまで先駆的な視点を持ち得たのだろうか、と感銘を受けました。


      当時、コリーをイギリスから輸入することを検討した程の氏ですから、
      イギリスにおける犬の飼育環境をご存知でいらしたことは想像に難くありません。

      でも、それだけではない。

      犬という生物に真正面から向き合い、慈しみ、大切にされていたのだなぁ、と。


      時代変わって、現在。

      ITの急激な進歩で、私たちはどこにいようと必要な情報の多くを
      入手できる、80年前と比してとてつもなく便利で恵まれた時代に生きています。

      犬と暮らす家庭や家庭犬の頭数も、当時より遥かに増えたことでしょう。

      でも、川端氏ほどの見識・意識を持って犬と暮らしている方が、
      果たしてどれほどおられるのかなぁ・・・・と。
      私たちより、圧倒的に情報量の少ない時代に生きていらした氏のしたためた
      「心得」に触れ、しみじみ思ってしまいました。

      「無知」とは「対象への関心の低さ」の裏返しなのだと、最近とみに思います。


      川端氏がきわめて高い識見を備えた稀有な方ではあったことは
      疑いのない事実ですが、
      こと犬の飼育については、有益な情報が世界中に溢れている現代に
      あって、氏の後塵を拝した状態がなんだか恥ずかしくも感じられました。


      「何が、どう変わったんだい?」

      そう問いかけられた気がするのは、私だけかなぁ・・・・。

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      由比ヶ浜の海岸にて、愛犬バロンと




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