訃報と変性性脊髄症について
      2015 / 08 / 20 ( Thu )
      お盆休み中は、おかげ様で連日満員御礼のチームウィルでした。

      (可愛いお預かり組のお写真は、後日ご紹介予定です。)



      毎朝挨拶していた東大のひまわり「オハーさん」が、
      とうとう頭をたれ、うつむいてしまいました。

      夏の終わりを、感じました。

      IMGP4223_20150820171043c10.jpg
      心をパッと明るくしてくれて、ありがとさんね。






      16日に、お客様のワンちゃんが亡くなりました。

      私がお世話をさせていただいた回数は、数えるほどでしたが、
      その子を思うたび、なんとも複雑な思いにかられました。


      その子は、遺伝性疾患であるクッシング、そして3年前には
      変性性脊髄症(以下DM)を発症し、私が5月にはじめて会った時には
      既に後躯を動かすことができず、日がな寝そべって過ごしていました。


      後躯の感覚が全くないかと思いきや、神経障害性と思しき疼痛は
      あったらしく、臀部を触ろうとする相手には誰であれ上体をよじって
      本気で噛みつきにきました。
      抱っこするのも、容易ではありません。
      神経性の疼痛を押さえるお薬などもトライされたものの、
      大きな変化は見られなかったようです。



      シッターをご用命いただきましたが、私がこの子のためにしてあげられた
      ことは、お水交換と排泄の後始末程度。
      お水も自力で飲み、排せつも寝たまましっかり自分でできました。
      すごいなぁ・・・と内心感心していました。



      先日、久方ぶりにシッターのご用命をいただきました。
      今回はごはんをあげたり、残尿を出してあげたり、と
      彼女にしてあげられることが少し増え、内心嬉しく思いました。
      この日は、苦手な臀部や背中を私が触っても、怒りませんでした。
      もう、感覚がなくなってしまったのだろうか・・・・そう思いました。


      「ごめんね、帰るね、ごめんね。」


      寝そべったまま、まんまるい愛らしい目でじいっと私を見つめる彼女に
      帰る間際、こう声をかけるのが常でした。

      今思えば、この子には無意識に「ごめんね」と声をかけていたように思います。

      この子に私がしてあげられることが本当に少なかったから。

      意識はしっかりしているのに、体を動かすことができない。
      そのストレス、イライラはどれほどだったろう。
      気分転換に連れ出してあげたいと思っても、
      噛みつきが激しく、抱っこもままならない状態・・・・。

      恐らく、いちばん身近で献身的に彼女のお世話を続けていらしたママさんが
      その状況に一番心を痛めておられたことでしょう。

      辛いなぁ・・・・・

      惨いなぁ・・・・・


      彼女を思うたび、やるせない思いでした。



      彼女が亡くなった翌日、ママさんより訃報のご連絡をいただきました。

      前日夜にお水も受け付けなくなり、翌日病院に搬送する途中、
      お子さんたちの膝の上で静かに息を引き取ったのだそうです。
      13年前、ブリーダーさんの元からお輿入れした時と同じく
      お姉ちゃん、お兄ちゃんたちのお膝の上で。



      ご家族みなさんとてもご多忙で、家族全員揃う日はほとんどないそうですが、
      この日は、偶然にも全員おうちにいらして、皆さんで見送ることができたと。

      これ以上ないパーフェクトなタイミングを見計らって旅立ったのだなぁ、
      本当に家族思いの子だなぁ・・・!
      でもそれは、ご家族が彼女を長年慈しまれた証だとも。

      病院で一人ぼっちで逝かせずに済んだことは、ご家族にとっても
      本当によかったと思います。

      そしてその子は、やっと不自由な体から放たれ自由を手にしました。
      がんばった、本当によくがんばりました・・・・。





      祭壇には、その子の若く元気な頃のお写真が沢山飾られていました。
      私の知らない、その子の屈託ない笑顔、走る姿に思わず目が釘づけになりました。


      ママさんが、静かにおっしゃっいました。

      申し分ない外見、器量に恵まれた子でしたが、2つの遺伝性疾患を発症しました。

      とりわけ変性性脊髄症は、本当に惨い病気です。

      私はこの子のブリーダーさんに、もううちの子のような犬は

      生み出さないでくださいと伝えたい・・・・・。





      ああ本当に。


      遺伝性疾患で苦しみ逝った愛犬を看取った多くのご家族たちの
      悲痛な叫びが、心あるブリーダーに届くことを切に切に願います。

      「命を生み出す」行為に、プロもアマもないと私は考えています。
      金銭の授受の有無も、金額の多寡も問わず、です。
      命を生み出す者には等しく、誕生させた動物の「神」たる
      重い重い責任が生涯ついて回ると。

      どんなに配慮してブリーディングを行ったとしても、
      健康に恵まれない個体が生まれる可能性は常に存在します。

      でも、間違いなく言えることは、
      遺伝性疾患は確実に減らすことができるということ。


      交配に用いたいと考えている台牝、台牡に、
      主要な遺伝子検査を一度受けさせる、それがまずは一歩でしょう。

      変性性脊髄症のDNA検査は、股関節形成不全同様、
      米国OFAに検査を依頼することができます。

      ※ペンブローク ウェルシュ コーギー クラブオブジャパン(PWCCJ)
       では、クラブ会員対象に、海外へのDNA検査の申込サポートを
       行っておられるようです。

       お問合せ先


      国内(株式会社ケーナインラボ)でも変性性脊髄症(以下DM)の遺伝子検査が
      可能のようですが、DMの原因遺伝子と考えられている
      「SOD1(スーパーオỿシドジスムターゼ1)」の2つの変異のうち、
      こちらで検出できるのは、「c.118 G>A」の変異のみで、もう一つの「c.54A>T」の
      変異は検出できないようです。
      参照:変性性脊髄症の遺伝子検査



      また、コーギーに限られますが、岐阜大学でもSOD1遺伝子の検査が
      可能です。
      ※ただし、岐阜大学で2015年現在検査を受けられるのは、かかりつけにて
      画像診断を実施しDMとの臨床診断をすでに受けたコーギーまたは
      DMが疑われているコーギーの検体のみとのことです。
      参照:変性性脊髄症の臨床診断および遺伝子検査



      国内では、DMの発症事例は圧倒的にコーギーに多く認められる
      ようですが、米国OFAの検査結果を見ますと、、他犬種の一部にも
      発症のリスクは一定以上あることが見て取れます。


      ご参考までに、OFAがサイトで公表している変性性脊髄症検査結果の
      一部(被検査頭数の多い犬種)をピックアップしてみました。
      (おまけとしてコリシェルの件数も掲載)

      DM.jpg
      参照元:DM TEST RESULT STATISTICS


      「CLEAR=クリアー(2つのノーマルな遺伝子コピー)」
      「CARRIER=キャリア(1つのノーマル遺伝子コピーと、1つの突然変異遺伝子コピー)」
      「AT RISK=DMを発症する危険性が高い(2つの突然変異遺伝子コピー) 」


      ※変異したSOD1遺伝子を「ペアで」持っている個体はDMを発症するリスクが
       あることが判明。
       つまり、前記「クリアー」「キャリア(突然変異遺伝子は1つのみ)」の犬自体は、
       ほぼDMを発症しないと言えるようです。
       一方、「AT RISK(突然変異遺伝子が2つ)」の犬はDMを発症する可能性が
       高いものの、必ず発症するとは限らないとあり。



      しかしこれを見ますと、やはりコーギー(ペンブローク)の発症リスクは
      ずぬけて高いようですね。


      日本国内で飼育されているコーギーのうち、どれほどの犬が
      変異遺伝子を持っており、どのくらいの犬がDMを発症しているのかを
      岐阜大学にて調査中とありますが、SOD1遺伝子検査の対象を発症が
      疑われる個体に限定している現状下では保有率と発症率の割り出しは
      遅々として進まないのだろうなぁ・・・・。


      小動物の理学療法の研究で知られる某大学の先生の私見ではありますが、
      日本国内のコーギーにおけるDMのキャリア保有率は
      実際のところ99%近いのではないか・・・との非常にショッキングな
      コメントを耳にしたことがあります。

      やはり、コーギーを繁殖させたいと思う方はすべからく
      DMリスクをしっかり踏まえた上で慎重に交配に踏み切っていただきたい!


      最後に、ブリーディングとDMリスクに関する
      しごくもっともな記事の一部を引用してお別れします。


      DMという病気は、真剣に受け止めるべきものです。
      それは、犬にとっては破壊的な結果をもたらす不治の病であり、
      彼らの世話をする飼い主にとっては非常に大変な経験です。
      したがって、現実的なアプローチは、繁殖のためにどの犬を選択したらよいかを
      考えるにあたって、A/A(※=AT RISK 突然変異遺伝子を2つ保有)か
      A/G(※=キャリア 突然変異遺伝子を1つ保有)の結果の犬には
      欠点があると考えるということです。

      それは、貧相なトップラインや、不完全な歩様が欠点であると考えられるのと
      同じことです。
      A/Aの結果の犬は、A/Gの犬よりも悪い欠点を持っていると考えられるべきでしょう。
      犬の繁殖者は、今までも良心的な繁殖者が常に行っていたことを
      続ければよいのです。
      すなわち、犬のすべての長所とすべての欠点を考慮して、
      ブリーディングストックを選択するということです。
      何世代もこのアプローチを使用すると、様々な犬種に貢献する犬質を維持
      または改良し続けている間に、DMの蔓延はかなり減少するでしょう。


      PWCCJ 「DMという病気について」より一部引用




      3年間DMと戦い抜いたコーギーちゃんとママさんに
      今日の記事を捧げます。


      Rちゃん、やすらかに・・・・。



      (追記)


      一般社団法人日本ドッグブリード機構

      「犬の遺伝性疾患について理解し、計画性を持って繁殖を行う
       ブリーダーを紹介します。
       良質な子犬を紹介し、ブリーダーの社会的地位向上の為、
       正しいブリーディングを伝えていきます。」


      コンセプトは素晴らしい。

      が、優良ブリーダーの精査を誰が、どのように、どのレベルまで
      実施しているのか、サイトを見る限りまったくわからず・・・・。

      私たちユーザー側こそ、「犬の健全性」に関する客観的な判断材料を
      積極的に求め、慎重に、冷静に、時に厳しくブリーダーを吟味する
      姿勢・視点がより求められているのだと感じた次第。
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