旅のおわり
      2014 / 05 / 18 ( Sun )
      ちょいとご無沙汰してしまいました。

      私もケモノたちも、元気にしております。


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      27歳のおじいちゃんも、すっかり夏毛に生え変わりました。


      あ、お写真は撮れませんでしたが、ゴン太君も元気です!



      記事でご紹介したいことは多々ありますが、
      本日の主役は、私の大好きな、とびきり素敵な御方です。


      その方とは、チームウィルのお客様S様のおじいさま。

      最初にお目にかかったのは、4年前でしたでしょうか。
      当時すでにリタイアされていましたが、長年ある犬種のブリーディングに
      携わっておられ、周囲から一目も二目も置かれる存在でいらっしゃいました。

      少しドキドキしながらご自宅にお伺いした私を、背のすらりとした、
      柔和なお顔のおじい様がにニコニコしてお出迎えくださいました。


      「いらっしゃい。」


      お人柄のにじみ出た、それは温かいお声でした。


      私は一瞬で、お洒落でお茶目でお優しく品のあるおじい様の
      大ファンになりました。
      (慕うファンは多いらしく、おじい様が主催されるドッグショーには
       毎年多くの人と犬が集まることを後に伝え聞きました。)


      寒い時期には、何度もご自宅でのお鍋の会にお誘いいただき、
      一緒にお鍋を囲んでおじい様のお話を伺うことが、楽しみでした。


      御席の隣には、山積みになった蔵書(すべて単行本)が。
      ほとんどが歴史に関する書物だそうです。

      東大出身のバンカーでいらっしゃいましたが、
      どちらかといえば、大学教授の雰囲気でした。

      旧約聖書を日本語版のみならず、英語とドイツ語版でもお読みに
      なると伺ってびっくり。
      なぜ、新約ではなく旧約なのかとお尋ねしますと、

      「人間の愚かさが、よくわかるから。」

      目にいたずらっぽい笑みを湛えるおじい様に、
      これは誰も敵わん・・・と思いました。

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      お若い頃は、奥様同伴で欧州中心に巡られ、イギリスで
      お眼鏡に叶った犬を粘り強い交渉の末譲り受けることに成功し、
      日本に連れかえってきたそうです。

      英国の名の知られたブリーダーから犬を譲ってもらうことが
      どれほど困難なことか・・・。
      私は内心(このおじい様だったから、許されたのだ)と思いました。

      英国の裕福なシリアスホビーブリーダーの心を動かしたのは、
      お金などではなく、おじい様のこの犬種に対する熱く真摯な思い、
      そしてなによりそのお人柄だったに相違ない、と感じました。

      敷地内に湖もある(どんだけ!!)広大なお屋敷内を自由に走り回って
      過ごしてきた大切な愛犬の生涯を託す相手を、
      ブリーダーさんは見誤りませんでした。

      イギリスから遠く離れた異国の地に連れてこられたお犬さんは、
      大切に大切に育てられ、ショーでも活躍し、
      無理のないブリーディングで犬質の高い子犬を産み出し
      日本における犬質向上に貢献しました。

      そして日英の、この犬種を愛してやまない二人の男性の親交は、
      互いがブリーディングを引退した後も生涯ずっと続くことになるのです。

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      「すぐ身近に、専門家がいらして恵まれていますね!」

      ドッグショーに、オーナーハンドリングで出場されるS様に、
      私は羨望の目を向けました。

      するとかえってきたのは、意外なお言葉。

      おじい様は、ああしろ、こうしろ、これはダメというアドバイスめいたことは
      一切おっしゃらない、と。
      そのスタンスは、S様がご幼少の頃から一貫しているとか。

      S様がまだわずか3歳の頃、一頭の犬をあてがわれ、
      「自分で育ててみなさい。」と。
      その時も、手取り足取りおじい様から教わった記憶は
      おありにならないとのことでした。


      おじい様は、ご自身が手掛けた犬であれ、他人様の犬であれ、
      犬の評価や感想をお身内にさえ口外されることはなかったそうです。

      一般に、自身で繁殖を手掛けた子犬をお譲りする際、プロアマ問わず、
      犬質が高く、ショーや繁殖で活躍できそうな子犬を手元に残し、
      残った子犬を希望者にお譲りするケースが多いのですが、
      (※ブリーダーの特権として当然ありだと私は思います。)
      おじい様は違っておられました。

      まず希望者に気に入った子犬を選んでいただき、残った子犬を
      お家に残したのだそうです。
      ショータイプの子であれば、ショーイングを楽しみ、
      ショークオリティではない子は、家庭犬として可愛がる。

      理由は明快でした。

      「本当に気に入った子犬をもらっていただきたいから。」



      ああ、私が知らなかっただけで、このようなブリーダーさんがいらしたのだなぁ!
      嬉しく、あたたかい気持ちになったことを覚えています。


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      5月7日、おじい様は愛するご家族が見守る中、旅立たれました。
      御年96歳でした。

      たくさんのバラに囲まれ、棺には、目に入れても痛くないほど可愛がられた
      犬たちの肖像画が描かれたそうです。

      葬儀の後のお清めは、おじい様お気に入りの六本木のレストランで
      とり行われたそうです。
      なんてそぐわしい・・・!


      今、おじい様が書斎がわりに使われていたお部屋では、
      大変お好きだったヴェルディのレクイエムが一日中流れています。

      お部屋に飾られたご家族のお写真の中には、まだ幼いS様が
      JKCのショーで愛犬をスタックしているお写真も。


      伝承すべきことを、ご自身の生き様を通して見事に伝えきり、
      旅立ってゆかれたのだ、と思いました。
      お見事・・・・その一言に尽きます。

      真に聡明で、品があり、優しく、強く、ユーモアに溢れた素晴らしい御方でした。
      稀有な御方でした。
      ゲーテの言葉を借りるなら、常に心の平衡を失わない「目立って気高い人」
      でした。

      お近づきになれたご縁に、ただただ感謝するばかりです。


      ご冥福を心からお祈り申し上げます。

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      (余談)

      おじい様は、とりわけ古今東西の歴史に深い関心をお持ちでした。
      歴史にとんと疎い私は、正直ぴんと来ませんでした。
      ところが今日、お宅をお邪魔した際ふと一冊の本が目に
      飛び込んできました。

      タイトルは「読むことは旅をすること」

      手にとらせていただき、ひらり、ページを一枚めくってみました。



      読むことは旅をすることである。
      旅をすることは風景を旅することだった。
      風景を旅することは、いま、ここに見えるもののうちに、
      見えないものをたずねることだった。
      見えないものをたずねることは、いま、ここに忘れられているものを
      思い出すことである。
      忘れてはいけないものが、忘れられているもののなかにはあるのだ。

      いつの世であれ、歴史が後に遺すのは人びとの夢の跡である。
      だが、人びとの夢の跡というのは、目には見えないものとしてしかのこらない。
      ただ風景の静けさとしてしか現前しない。
      耳を澄まし、目を凝らすことでしか、読むことのできない歴史があるのだ。
      旅をすることは風景を読むこと、風景という本を読むこと、
      風景の中に遺されている無言の言葉を聴くことだった。

        長田弘著「読むことは旅をすること 私の20世紀読書紀行」より (平凡社)




      おじい様も、目には見えない「夢の跡」をたずね
      耳を澄まし、目をこらして旅を続けておられたのかもしれません。

      このご本、お借りして読んでみたいな・・・。
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