いつもここに
      2013 / 07 / 13 ( Sat )
           あの夏。あの日。

           腕の中でうすれゆくいのちをだきしめていた。


           ふれられるものは永遠ではない。

           こころで永遠になる。

           あのこは無ではない。

           死は無ではない。

           グレイはいた。

           グレイはいる。

           かたちを変えて いつもそばに

           いつもここに-。
        
           
          (伊勢英子 「グレイのしっぽ」ふたりのあとがきより)




      仕事で交通機関を利用する時は、いつもなにがしかの文庫本を
      カバンにしのばせ、移動時間に読むことにしています。

      この日、私が選んだのは伊勢英子さんの「グレイのしっぽ」。
      ハスキー犬グレイとの5年間をユーモラスなスケッチと、
      のびやかな文章でつづった「グレイシリーズ3部作」の最終巻です。

      IMG_9329 (2)

      私はこのシリーズがとりわけ好きで、これまで何度も
      読んでいるはずなのですが、この日はじめてあとがきに
      ある冒頭の詩に気付きました。

      この詩は、著者伊勢さんの20歳になられたお嬢さんが、
      グレイが旅立って6回目の夏に寄せたもの。
      (グレイは自宅で、彼女の腕の中で5歳の生涯を閉じました。)


      一度でも心から愛し、慈しんだ相棒犬が存在した方、
      とりわけ、その存在を亡くした経験がおありの方に、
      この本を手にとっていただけたら・・・と願います。


      私は、ページをめくりながら、この上なく幸せだった日々、
      ベリーと眺めた牧草の海原、その上を風が吹き渡るさま、
      空高くさえずるひばりの声、草いきれとその中で
      満足そうに目を細め私に寄り添っていたベリーの体温を思い出します。


      心に響く文章があまりに多すぎて、そのすべてをご紹介することは
      難しいですが、今日は「ふるやのもり」から一部抜粋して
      お別れとさせていただきます。



      死にゆく者を家でみとる時、家族は意識せぬところで
      みんな何かを捨てている。みえない形で。

      (中略)

      グレイには限りなく優しくできても、
      死への恐怖は「誰かになぐさめてほしい」餓えに変わり、
      グレイに助かってほしい願望は
      「だれにもそれはできない」ことへの怒りに変わり、
      三人は一触即発の状態になっていた。

      信じられないことだった。

      とりなしてくれる存在が、
      まとめてくれる存在がいない。
      今までどうしていたっけ、
      こんな時誰かがいつも荒れ狂う怒りをしずめ、
      不安を吸い取ってくれてたではないか・・・・グレイ。

      グレイ、それはグレイだったのだ。

      なんてことだ。
      みんなみんな、グレイに甘えグレイにぶちまけ、
      グレイにたよりきって生きていたのだ。

      グレイののん気が、
      グレイの「ね」の目が、
      グレイのおとぼけが、
      グレイの毛皮が、
      そしてグレイが教えてくれた空の高さが、雲の変化が、
      グレイのアレルギーが学ばせてくれたやさしさやいたわりが、
      涙が笑いが、
      グレイが紹介してくれたブロックべいの穴や
      ジャックや訓練士のSさんが、
      グレイが忘れさせてくれた争う心や人を傷つけることばが、
      クレイが感じさせてくれた安心感や
      平和な朝の光が夜のやすらぎが、
      そしてグレイとともに歩んだ道が時が春夏秋冬、
      月火水木金土日曜日が、
      グレイといっしょにみつけた草地が、
      梅林公園のタイヤや夜の集会が、
      風の匂い、土の匂いが-。
      それらがあったから、
      グレイがみんな与えてくれたから、
      みんな共有してくれたから、私たちは生きてこられたのだ。
      みんなみんなグレイに甘えきって生きていたのだ。

      今この家の“ふるやのもり状態”は、
      まさにグレイという支えを失った三つの貧しい心の
      よりあい所帯だった。

       (伊勢英子 「グレイのしっぽ」ふるやのもり より)









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